家禽が生産する卵や肉は栄養価とバランスにおいて極めて優れた食資源です。家禽の生産は熱心な技術研究によって効率的に行われるようになりました。一方、家禽は優秀な生産性を保ちながら、将来的には機能性食品や有用物質を生産する動物工場としても活躍が期待されます。 先進国では、産卵率は高いものの、解決すべき多くの課題も残されています。たとえば、近年、卵の細菌汚染が深刻で、また卵殻の破損による大きな経済的損失も起こります。多くの途上国では、改良されたニワトリの普及は困難なこともあり、在来鶏の産卵率の改善が期待されています。
さらに,鳥類を含めて、環境化学物質が動物生体の恒常性を歪める危険性も指摘されています。
これらの問題を考えるには、鳥類の生殖機能や免疫機能を理解することが大切です。
家禽の雌の生殖器は左側に発達する
鳥類の雌性生殖器は,一般に左側のみが発達し,右側のものは発生の途中で退行します.ただし,タカ目など一部の鳥類には,生殖器は両側に発達して機能するものもあります。 卵巣では,卵黄(卵子)が形成され,卵管では卵白,卵殻膜,卵殻が形成されます.一方、雄の生殖器は左右に発達します.
卵巣は巧妙に卵子を生産する
卵胞は卵黄(卵子)を特殊な袋が包む構造です.産卵期の卵巣では,皮質内に無数にある微小な卵胞のほか,多数の白色卵胞と約5〜10個の黄色卵胞,排卵後卵胞および閉鎖卵胞が卵巣表面に突出して認められます。黄色卵胞は大きさが全て異なり,明らかな発育の序列性を示します.毎日産卵する鳥では,排卵は最大卵胞(大きさで第1位卵胞)だけで起こり,翌日までに第2位卵胞は最大卵胞へ,第3位卵胞は第2位卵胞へというように順次発育します.このためニワトリやウズラなどの家禽は1日に1個の卵を産みます。
卵巣機能はホルモンによって調節される
卵子の形成やステロイドホルモンの産生といった卵巣の機能は,下垂体から分泌される性腺刺激ホルモンによって調節されます.たとえば,卵胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone)は白色卵胞から黄色卵胞への転移や性ステロイド産生などを刺激し,黄体形成ホルモン(luteinizing hormone)は排卵や性ステロイドの産生などを促進します.一方,最近,卵巣で産生される性ステロイドも,卵胞閉鎖を抑制したり,排卵を誘起したりするなど,卵巣内で局所的な生理機能を果たすとも考えられています.これを裏付ける知見として卵巣内に性ステロイドのレセプターが存在することが明らかにされています。
卵管は惜しみなくタンパクやカルシウムを分泌する
排卵後の卵子は卵管に入ってタマゴとして完成されます。卵管は漏斗部(infundibulum),膨大部(magnum),峡部(isthmus),卵殻腺部(shell gland)および腟部(vagina)に大別されます.漏斗部は卵巣付近の腹腔に開き,腟部は総排泄腔に開口します.漏斗部では,排卵卵子が受容され,卵子周囲にカラザ成分が沈着します.膨大部,峡部および卵殻腺部では,それぞれ卵白,卵殻膜および卵殻が形成されます.最終過程の卵殻形成が終わると,下垂体後葉からのバゾトシンや卵巣からのプロスタグランジンによってタマゴは体外へ放卵されます。
鳥の精子は卵管内で長生きできる
ニワトリやウズラは一度の交配で数日から数週間も受精卵を産みつづけます。これは卵殻腺部と腟部との境界の子宮腟移行部(utero-vaginal junction)と呼ばれる部位に精子貯蔵腺が存在して,精子が長期間生存できるからです.受精は卵管上部である漏斗部で起こります.
生殖器の感染防御はぬかりなく
卵管は腟部が外界に開くので常時細菌が侵入する可能性があります。このため免疫システムもよく発達しています.この働きが弱いと,生体は細菌に感染したり,タマゴの細菌汚染の原因にもなると考えられます。一方で、精子も外来細胞であるので,これに対する免疫応答が生じると受精率は低下することも考えられます。卵管の発達・機能が性ステロイドによって調節されるように卵管内の免疫システムも性ステロイドによって規制されます。
卵管は若返りの達人
卵巣や卵管は、性成熟に達すると発達して,その後に繁殖期を終て産卵を停止すると,一度退縮し,さらに繁殖に適した環境条件を迎えると再度発達します.この過程で生殖機能は前回の繁殖期の後期より向上して産卵率や卵質も良くなります。このことを利用して,ニワトリを換羽させ,産卵機能を改善するいう「強制換羽技術」があります。